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お客様からの「1杯どうぞ」はお受けしません

先日、このブログで満寿一酒造の増井浩二専務への追悼文を書いたところ、それを見てわざわざ店を
訪ねて下さった方がいました。神田で焼き鳥店を営んでいる方で、店で出す日本酒は「満寿一」と
同じ蔵元が九州の酒販店向けに造る「幡随院長兵衛」の2種類のみとか。東京に満寿一のみで商売
している店があることに驚くとともに、亡くなった増井さんとの縁の深さや思いの強さを感じました。

今年の元旦に増井さんから届いたという年賀状を見せてもらいました。自らの病気のことには一言も
触れず、最後に「呉々もお身体にお気をつけ下さい」と逆に相手の健康を気遣う優しさに涙が出そうに
なりました。わざわざご持参いただいた「幡随院長兵衛」を居合わせたお客様と一緒に味わいながら、
日本酒との一期一会の出合いを大切にしていく決意を新たにしました。

店には時折、古い友人知人などの懐かしい顔が訪れます。数十年ぶりに会って近況を聞くと、結構な
割合で大きな病気をしたことを告白されます。亡くなった同級生のことに話が及ぶこともあります。
お互いそういう年齢になったんだと慨嘆するのが常ですが、それだけに健康こそが最大の財産である
ことを痛感させられます。

店を始める前、妻と決めたルールに「営業中にお客から酒を勧められてもお断りする」というものが
あります。自分がかつて通っていた店には店主がお客と一緒になって酒を酌み交わし、営業後も別の
店に流れて深夜まで飲み直すのを常にしているところがありました。その店主は若くして体を壊し、
店もたたんでしまいました。私のように50歳を過ぎた人間が1日でも長く店を続けるためには、
誘惑に負けずに自らを律するしかないと決意したのです。「1杯いかがですか」とおっしゃる
お客様からはお気持ちだけいただくようにしていますので、どうかご容赦ください。

また、明らかに飲み過ぎだと思われるお客様には新たなお酒の提供をストップすることもあります。
お客様にも美味しく適量のお酒を飲んで健康でいていただきたいと思うからです。店内を禁煙にして
いるのも、お酒の香りや味わいを邪魔されないようにするだけでなく、できれば喫煙者にタバコを
止めてもらいたいと積極的に願うからです。

私の父は毎日1升以上の日本酒を飲む酒豪でしたが、タバコも1日数箱を空けるチェーンスモーカー
でした。生涯でお酒の影響と思われる病気はほとんどしませんでしたが、最期は肺がんを患って
亡くなりました。雑誌記者時代、新聞に「飲食店の禁煙化ノウハウ」という記事を書いたことが
あります。そこで取材した“禁煙バー”のママは、食道がんにかかったことがきっかけで店を禁煙化
したと語っていました。喫煙が付き物のバーを禁煙化するのは相当の勇気がいったそうですが、
今ではうまくタバコを止められないお客の良き相談役になっています。

酒やタバコは毒にもクスリにもなります。いずれも美味しく味わうには「健康」という器が必要
です。皆様にもその器を大事にしていただき、長く人生を楽しんでいただきたい。そのために
何か少しでもお手伝いできる店になれればと思っています。

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